大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

津地方裁判所四日市支部 昭和35年(ワ)93号 判決 1963年4月30日

主文

原告が被告に対して、別紙物件目録(二)記載の土地について、堅固な建物以外の建物の所有を目的とする、期間の定のない、賃料が一坪について一箇月五百二十円である賃借権と同じ使用収益の権利を有することを確認する。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「原告が被告に対して、別紙物件目録(二)記載の土地について、建物所有を目的とする、期間の定のない、賃料月額千二百四十円なる賃借権を有することを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、「(一)、別紙物件目録(一)記載の土地(以下「本件旧地」という)は被告の所有に属するものであるが、大正六年、竹口鋳造所を営んでいた伊藤佐十郎が工場建物所有の目的で賃借し、当時沼地であつたのを埋立てて、工場敷地として使用した。(二)、昭和十八年七月一日、原告が設立され、原告が本件旧地を被告から借受けた。賃料は昭和十九年十一月当時は一箇月三十四円五十九銭で六箇月分一括支払いの約束であつたが、昭和二十一年には一箇月一坪について四十銭に改められた。そして賃料は賃貸人である被告が取立てることになつていたのであり、原告は被告の方で取立てに来た昭和二十四年八月分迄の賃料は支払済である。(三)、原告が本件旧地上に所有していた建物が、昭和二十三年秋台風のため倒壊したので、これを修築しようとしたところ、本件旧地は三重県が行う土地区画整理事業により、道路敷地となることになつていたため、四日市市役所、および土地区画整理事務所が右建物の修築を許可しないため、原告は右土地を使用することができなくなつた。そこで、昭和二十四年十二月、原告は本件旧地を使用できない間の賃料の支払いについて被告と協議したところ、被告は、本件旧地に対する換地が決まり、換地を使用できるようになつた時には換地を原告に使用させるから、それまでは本件旧地の賃料の支払いを見合わせるようにということであり、また賃料の取立てにも来なくなつた。(四)、ところがその後数年を経ても被告から何の連絡もないので、原告が昭和二十八年頃本件旧地の賃料を支払おうとしたが、被告は、本件旧地を敷地とする道路の工事が進捗すれば、四日市市役所または県庁から何らかの通知がある筈であるから、それまで待つより外はないといつて、賃料を受領しなかつた。その後本件旧地に対する仮換地として別紙物件目録(二)記載の土地(以下「本件仮換地」という)が指定され、昭和三十三年九月末には漸く本件仮換地が現実に使用できる状態となつたので、原告は同年十月二日、それまで被告の申出によつて支払いを控えていた賃料を持参し、その支払いと、本件仮換地を使用したい旨申出でたところ、被告はこれを拒絶した。そしてその後原告が本件仮換地の使用を請求しても被告が応じないので、原告は昭和三十五年三月二十九日、四日市簡易裁判所に被告を相手方として借地権確認等の調停を申立てたが、同年十月二十七日不調に終つた。(五)、よつて原告は、原告が被告に対して、本件仮換地について、建物所有を目的とする、期間の定のない、「賃料月額千二百四十円(現在の相当賃料額)なる賃借権を有することの確認を求める。」と述べ、被告の主張に対する答弁として、「(一)、被告の主張事実は否認する。(二)、原告は昭和二十四年九月分以降の支払いをしていないが、これは前記のとおり被告の申出でによるものであり、かつ取立債務であるにも拘らず、被告が取立てに来ないことによるのであり、原告には賃料債務について債務不履行の責任はないのであるから、原告が賃料の支払いをしなかつたことは契約解除の原因とならない。」と述べた。

証拠(省略)

被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、「(一)、原告主張の請求原因事実のうち、本件旧地が三重県が施行する土地区画整理事業により道路敷地となり、本件旧地の仮換地として本件仮換地が指定されたこと、原告がその主張のとおりの調停を申立て、不調に終つたことはいずれも認めるがその余の事実は総て知らない。(二)、被告は原告に対して、昭和二十一年五月一日、被告の所有に属する本件旧地を、期間五年、賃料は一坪一箇月四十銭、毎月末払い、賃料の支払いを一回でも怠つたときは契約を解除できるという約束で賃貸したが、原告は当初から全く賃料を支払わず、被告は使用人森正男を使者として、昭和二十四年五月頃原告に対して賃料の支払いを催告したが、原告は依然賃料を支払わないので、原告はその頃右森によつて、口頭で本件旧地賃貸借契約解除の意思表示をしたので、これによつて原告との本件旧地賃貸借契約は解除された。(三)、その後昭和三十四年六月一日になつて、もと原告の代表取締役であつた伊藤伝三郎が過去十四年間分の賃料であるとして約一万円を被告のところへ持参し、本件旧地を再び賃借したい旨申入れたが、被告はこれを拒絶するとともに、前記の賃貸借契約解除を確認したのである。」と述べた。

証拠(省略)

理由

本件旧地が被告の所有に属すること、三重県が行なう土地区画整理事業により本件旧地が道路敷地となり、その仮換地として本件仮換地が指定されていることはいずれも当事者間に争いがない。

いずれも真正に作成されたことに争いのない甲第三号証の一、二、いずれもその記載の形式から原告によつて真正に作成されたと認められる甲第四ないし第七号証、賃借人名下の印影が原告の印によつて押印されたことに争いがないことによつて真正に作成されたと認められる乙第一号証、および証人西田清二郎、同山川作右衛門、同伊藤伝三郎、同森正男の各証言、ならびに被告本人尋問の結果を合わせて考えると、次の事実が認められる。

大正六年、竹口鋳造所を営んでいた伊藤佐十郎が被告の父から、本件旧地を工場建物所有の目的で賃借し、昭和五年に被告の父が死亡し、被告が相続により本件旧地所有権を取得したので、被告が賃貸人の地位を承継した。昭和十八年七月に原告が設立されるとともに原告が引続いて本件旧地を被告から賃借し、昭和二十三年秋に当時本件旧地上にあつた木造トタン葺平家建の工場建物が台風で倒壊するまで工場建物敷地として使用していた。本件旧地の賃料は、昭和十九年当時は半年間三十四円五十九銭であり、昭和二十一年五月以降は一箇月三十八円四十銭であり、毎月被告の使用人が原告の事務所で取立てて支払いを受け、少くとも昭和二十四年一月分までは支払われた。

右のように認められるのであり、右認定を覆すに足りる証拠はない。

原告は、本件旧地の賃料を昭和二十四年八月分まで支払済であると主張するが、真正に作成されたことに争いのない甲第三号証の三が昭和二十四年六月分の賃料の領収証であることを認めるに足りる証拠はなく、その外にも昭和二十四年二月以降の賃料が支払われたことを認めるに足りる証拠はない。また原告は、昭和二十四年十二月に被告との間で、本件旧地の賃料は本件旧地の換地が決り、原告が現実に換地を使用できるようになるまで支払いを見合わせることとする約束ができたと主張するが、原告の右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

被告は、原告が本件旧地の賃料の支払いをしないので、昭和二十四年五月頃、被告の使用人森正男をして口頭で原告に賃料の支払いを催告させたが、原告が応じないので、その頃右森によつて、口頭で、原告に対して本件旧地賃貸借契約解除の意思表示をしたと主張するが、被告の右主張のような本件旧地賃貸借契約解除の意思表示がなされたことを認めるに足りる証拠はない。また前掲記の乙第一号証(記載されている賃貸借の目的たる土地の表示は、本件旧地と地番、坪数が異るが、弁論の全趣旨によると、本件旧地の賃貸借について作成されたものであることが認められる。)には賃貸借の期間を五年間とする旨記載されているが、前記認定のとおり、本件旧地は建物所有の目的で賃貸借されたものであるから、借地法第十一条によつて、右の記載による約束は、本件旧地の賃貸借の存続期間を制限する効力を有しないものといわなければならない。また被告は、昭和三十四年六月一日に、もと原告の代表取締役であつた伊藤伝三郎が、本件旧地賃貸借契約が解除されていることを認めたと主張するが、右の事実を認めるに足りる証拠はない。

本件旧地の賃貸借が、建物所有を目的とするものであることは前記認定のとおりであるが、それが堅固な建物の所有を目的とするものであることについては何も主張、証拠がないから、借地法第三条によつて、堅固な建物以外の建物の所有を目的とするものとみなされる。

してみると、原、被告間の本件旧地の、堅固な建物以外の建物所有を目的とする。期間の定のない賃貸借契約は、原告が昭和二十四年二月分以降の賃料を支払わなかつたことに因つては解除されず、現に存続しているものといわなければならず、したがつて、本件旧地に対する仮換地として本件仮換地が指定されたことによつて、原告は本件仮換地について本件旧地についての右賃借権と同じ使用収益の権利を有しているものといわなければならない。(原告は、区画整理事業施行者に対して本件旧地についての賃借権の届出をしたということを主張するのみで、区画整理事業施行者から、原告の本件旧地賃借権の仮換地の指定を受けたことについては何も主張せず、またその指定がなされたことを認めるに足りる証拠もないが、本件旧地が一筆の土地の全部である以上、その賃借人たる原告は、賃借権の仮換地の指定を受けなくても、本件旧地の仮換地として本件仮換地が指定されたことによつて、本件仮換地について賃借権と同じ使用収益の権利を取得したと解するのが相当である。)

そこで、本件仮換地の現在の相当賃料額について考えるに、鑑定人林保正の鑑定の結果、および原告は本件仮換地をその営業のために使用し、これによつて利潤を挙げるものであることなどを合わせて考えると、本件仮換地の現在の賃料額は、一坪について一箇月五百二十円が相当であると認められる。

以上のとおりであるから、原告は被告に対して、本件仮換地について、堅固な建物以外の建物の所有を目的とする、期間の定めのない、賃料が一坪について一箇月五百二十円である賃借権と同じ使用収益の権利を有していることになるので、原告の請求は右の権利の限度においては理由があるからこれを認容し、右の限度を超える部分は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担については民事訴訟法第九十二条を適用して主文のとおり判決する。

別紙

物件目録

(一)、四日市市大字浜田三千六百番

宅地  九十八坪七合

(二)、右(一)の土地の仮換地

第八工区六十三ブロツク(ロ)六十坪二合

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例